マジックミラーカーVSマジックミラー号 マジックミラー号の新たな商標出願は登録できる?
「マジックミラー号」をご存じですか?「マジックミラー号」はソフトオンデマンドの商標であり、アダルトビデオ業界で知られています。先日、ソフトオンデマンドは「マジックミラー号」について既に事業範囲内の商標権を取得していたものの、最近新たに商標登録出願をしたというニュースをみました。
「マジックミラーカー」は軽トラックの荷台部分をマジックミラーで覆った車両を貸与するサービスに用いられている商標です。商標「マジックミラーカー」は2022年5月20日に商標登録出願されており、現在審査中です。
商標「マジックミラーカー」にかかる商標登録出願には情報提供がされています。情報提供は、商標登録出願に係る商標が商標の登録要件を満たしていない、あるいは商標の不登録事由に該当する等の審査に有用な情報を第三者により提供することのできる制度です。つまり、商標登録出願に対しては、無関係の第三者が商標登録出願に係る商標が登録されるべきではない商標であることを主張できます。
商標登録の要件は商標法第3条及び第4条に規定されており、これらの規定に該当する場合登録が拒絶されます。
情報提供の内容は、以下の3つです。
・商標法第3条第1項第3号
商標法第3条第1項第3号には、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」と規定されています。いわゆる記述的商標と呼ばれており、商品の内容、サービスの内容等をそのまま示す商標は本号に該当します。商標法第3条は商標の識別力の有無を判断しており、このような記述的商標は商標の識別力を欠いていると考えられています。
・商標法第4条第1項第15号
商標法第4条第1項第15号には、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)」と規定されています。本号は出願した商標を使用することで出所の混同を生ずるおそれがある場合に適用されます。本件に当てはめると、レンタカー事業に「マジックミラーカー」を使用した場合に、そのレンタカー事業が「マジックミラー号」の商標権を保有するソフトオンデマンドにより提供されたものであると需要者が誤認するおそれのあると判断されれば商標法第4条第1項第15号が適用されます。
・商標法第4条第1項第19号
商標法第4条第1項第19号には、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されています。「不正の目的」という主観的要素を必要とする規定です。「不正の目的」について本記事では割愛します。
特許庁ではこれら情報提供の内容を踏まえた上で審査することになります。商標「マジックミラーカー」に係る商標登録出願には特許庁から拒絶理由が通知されています。拒絶理由の内容は情報提供の内容と同様であり、商標法第3条第1項第3号、商標法第4条1項15号、及び、商標法第4条第1項第19号です。ただし、この拒絶理由には若干の矛盾を感じています。
商標法第4条第1項第15号は出所混同を問題とする規定です。出所混同を生ずるおそれがあるということは商標の識別力があることになります。前述したように、4条1項15号は、レンタカー事業に「マジックミラーカー」を使用した場合に、そのレンタカー事業が「マジックミラー号」の商標権を保有するソフトオンデマンドにより提供されたものであると需要者が誤認するおそれのあると判断された場合に適用されます。「マジックミラーカー」という商標を用いることでソフトオンデマンドが販売する商品やサービスとの混同を生ずるのであれば、「マジックミラーカー」は識別力を有するといえます。なので、識別力を問題とする商標法第3条の規定には該当しないといえます。もっとも、この商標登録出願には情報提供がなされているので、特許庁独自の判断をそのまま記述したというよりも、情報提供の内容を反映した拒絶理由を通知していると考えられます。
更に、冒頭のとおり、ソフトオンデマンドは、「マジックミラー号」について、第39類の役務(車両による輸送、自動車の貸与、自動車の運転の代行等)を指定した商標登録出願を行っています。第39類の指定役務には商標「マジックミラーカー」を使用しているレンタカー事業が含まれますので、第39類の「マジックミラー号」の商標権をソフトオンデマンドが取得すれば、「マジックミラーカー」に対する権利行使の体制が整います。
しかし、商標法第4条第1項第19号は比較する商標が類似していることを前提としています。そのため、情報提供の内容及び拒絶理由的には、「マジックミラーカー」と「マジックミラー号」は類似していると判断されたことになります。加えて、「マジックミラーカー」には商標法第3条第1項第3号に該当することも指摘されているため、識別力がないと判断されています。このことからすると、「マジックミラーカー」と類似すると判断された「マジックミラー号」についても、「マジックミラーカー」と同様に識別力がなく、商標法第3条第1項第3号に該当すると判断される可能性があります。この場合、「マジックミラー号」に係る商標登録出願は拒絶されることになります。
また、商標法は指定商品又は指定役務に対して商標を使用又は使用する意思を有していることを登録要件として要求(商標法第3条第1項柱書)しています。ソフトオンデマンドが第39類の指定役務(車両による輸送、自動車の貸与、自動車の運転の代行等)に対して「マジックミラー号」を使用又は使用する意思がない場合は商標法第3条第1項柱書により拒絶されます。これから「マジックミラー号」について審査が行われるわけですが、ソフトオンデマンドが第39類の指定役務に対して「マジックミラー号」を使用する意思があると推認できる根拠に乏しい(若しくはない)ため、商標法第3条第1項柱書の拒絶理由が通知される可能性は高いと考えています。
商標の使用を前提としない防護標章登録を行うという手もありますが、こちらの手続は現状確認できていません。防護標章登録は実際に商標を使用することを要求されていないため、使用する予定はないけど他人の使用は抑えたいという場合に非常に有効です。もっとも、防護標章登録を受けるためには商標が著名であることを要求されるため、この点がネックになってきます。特許庁は商標法第4条第1項第19号の拒絶理由を通知してきているものの、情報提供の内容を反映させたにすぎず、審判や裁判で最終的にどのように判断されるかは未知数です。
そのため、ソフトオンデマンドによる「マジックミラー号」の新たな商標登録出願は商標登録できるかどうか怪しいと考えられます。