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アップルの「AirTag」を不正改造し逮捕 なぜ商標法違反?

 AirTagはApple社が販売する紛失防止用のデバイスです。貴重品等に付けておけば、iPhoneが位置情報を教えてくれます。先日、このAirTagを不正改造し販売した者が逮捕されたとのニュースをみました。逮捕は商標法違反が根拠となっています。実は原則的に転売は他人の商標権を侵害することにはならないのです。

では、なぜ商標権侵害になるのか?

 商標には自他商品・役務識別機能を備えていることを前提として商品又は役務に使用されることで3つの機能を発揮すると考えられています。

①出所表示機能
 出所表示機能は、同一商標を付した商品又は役務は一定の生産者、販売者等から提供されたものであることを示す機能です。簡単にいうと、どこから販売されている商品又は提供されているサービスであるのかを示す機能です。商標は、商品又はサービスを識別する標識として機能を有するがゆえに、その商品又は役務の出所を表示する機能を発揮します。例えば、商標「きのこの山」が使用された商品は、株式会社明治から販売されたものであることを示します。

②品質保証機能
 品質保証機能は、同一商標を付した商品又は役務は常に一定の品質又は質を備えていることを保証する機能です。事業者は一定の品質又は質を維持した商品の販売又はサービスの提供を続けることで、需要者はその商標が付された商品又はサービスは一定の品質又は質を備えているだろうという信頼が生まれます。事業者がこの信頼の維持に努める結果、その商標には品質保証機能が生じます。

③広告機能
 商標を使用することにより、その事業者の商品又はサービスであることを需要者に伝え、商品又は役務の購買・利用を喚起させる機能です。広告等に商標を用いることで、需要者に対して印象付け、当該商標が付された商品又はサービスの選択を促す機能です。

 転売行為があった場合、商標がもつこれら機能は発揮されるのでしょうか。
 Nintendoのコントローラを例に考えてみましょう。まず、転売ということなので、NintendoのコントローラにはNintendoの商標が残っています。これをみた需要者は、Nintendoの商標が付されていることで、任天堂株式会社から提供された商品であることが認識できます。そのため、Nintendoのコントローラが転売されたとしても出所表示機能が害されることにはなりません。

 次に、Nintendoのコントローラは任天堂株式会社から提供された商品ですので、任天堂株式会社の品質を備えたものであり、転売行為があったとしても品質保証機能が害されることにはなりません。宣伝広告機能は今回関係ないので説明は割愛します。


 したがって、転売行為はこれら機能を害することにならず、商標権を侵害することにならないのです。中古ショップでNintendoのコントローラが販売されたところで、誰も中古ショップが製造したコントローラとは思わないですよね。仮に転売に対して商標権侵害と認めてしまうと、商標の保護が過度に厚くなってしまうのと、需要者の利益を保護するという商標法の目的にそぐわない結果となってしまいます。

 ただし、改造を加えてしまうと話しは変わります。改造後の商品については任天堂がその品質につき責任を負うことができません。なので、その商品にNintendoの商標が付されていると、その商標の品質表示機能を害することになります。商標がもつ品質表示機能を害する結果として、商標権侵害が認められるという理屈です。

 AirTagの件については無音化した上で転売していたことから商標法違反を理由に逮捕されました。無音化という改造を加えたことによって商標権侵害に該当する結果となりました。