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CHANELのボトルデザイン。そもそも外観デザインは商標登録可能?

 先日、フランスのファッションブランド「シャネル」がNo5のボトルデザインを商標出願し、米国特許商標庁は「識別力なし」と難色を示したという記事を見ました。

 シャネルNo5の香水はとても有名ですので知っている方も多いのではないでしょうか。今回の出願はシャネルNo5に使用されているボトルデザインについての商標出願だそうです。

 商標登録の対象は、名称やロゴマークのみと思われがちですが、立体的形状や色、音等もあります。立体的形状にかかる登録商標としては、任天堂のピカチュウやケンタッキーフライドチキンのカーネルサンダース等が挙げられます。いずれも、ピカチュウをみれば任天堂、カーネルサンダースをみればケンタッキーと認識できますよね。なので、名称やロゴマークの他に立体的形状なんかも商標登録の対象となっています。

 ボトルデザインと聞くと、知的財産的には物品の外観を保護する意匠権で保護するのが一般的ですが、場合によっては、物品の外観でも商標権で保護した方が良いケースもあります。

 意匠法は意匠を保護対象としており、「意匠」とは、「物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。次条第二項、第三十七条第二項、第三十八条第七号及び第八号、第四十四条の三第二項第六号並びに第五十五条第二項六号を除き、以下同じ。)であつて、視覚を通じて美観を起こされるものをいう。」と規定されています(意匠法第2条第1項)。
 内装や建築物も意匠法の保護対象と規定されているものの、これらは「イノベーションの促進とブランド構築に資する優れた意匠を保護可能とすべく」令和2年4月1日の法改正で保護対象として追加されたものであって、未だ登録例も少なく、権利の有効性に関しては不透明なところがあります。そのため、現状は、専ら工業的に生産可能な物品のデザインを保護するものとして活用されています。

 商標法は商標を保護する法律であるものの、本来的には商標自体を保護対象としているわけではありません。商標法において、商標自体は同種商品・同種サービスから事業者を区別するための識別標識であると考えられ、その識別標識としての商標に蓄積した需要者の信頼を保護対象としています。需要者の信頼というのはその商標を使用する企業の努力によって構築されるものです。需要者が商標を付された商品又はサービスを繰り返し購入又は利用することでその商標を付された商品又はサービスに対するイメージが構築されます。ある時はとても品質がよく支払ったお値段以上パフォーマンスが得られることでその商標を付された商品又はサービスに対して良いイメージがつき、ある時は所望する品質が得られず、その商標を付された商品又はサービスのイメージが悪くなることもあります。商標法は需要者がその商標に対して抱くイメージを保護対象としているのです。
 ただし、その商標に対するお客様のイメージは観念であり、形があるものではないので、イメージ自体を保護することはできません。なので、商標法では、形式上商標を保護することによって、その商標に化体した需要者の信頼を実質的に保護しているのです。あくまでも、商標法における保護対象は商標に化体した信頼ということになります。

 したがって、ボトルデザインは、デザインという側面で保護する場合は意匠権、そのボトルデザインに対するお客様のイメージという側面で保護する場合は商標権ということになります。

 次に、ボトルデザインは商標になり得るのかという問題があります。

 商標は、「人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。」と規定されています(商標法第2条第1項)。
 「次に掲げるもの」には、「業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」(商標法第2条第1項第1号)又は「業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)」(商標法第2条第1項第2号)と規定されています。
 つまり、商標は商品又はサービスに用いる標章をいいます。標章には、商標法第2条第1項に規定されているように立体的形状が含まれます。従って、ボトルデザインは商標になり得ます。

 では、どのような場合に立体的形状の商標登録ができるのでしょうか。

 まず、立体的形状に限った話しではないのですが、商標は識別力があることを前提として登録が認められています(商標法第3条)。
 識別力とは、同種商品・同種サービスが並んでいる場合に、その同種商品・同種サービスから事業者を区別することができる機能をいいます。例えば、普通のペットボトルの形状は事業者の区別ができないですよね。どの事業者も普通のペットボトルを使っていると思います。「綾鷹」とか「伊右衛門」というラベルがあることで事業者の区別をしていますよね。形状そのものでは区別していません。識別力に関しては商標法第3条第1項第3号に規定されています。
 商標法第3条第1項第3号は「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)」と規定されています。
 もう少しかみ砕くと、需要者が商品の形状、商品の包装の形状又は役務の提供の用に供する物の形状そのものの範囲をでないと認識されるにすぎない商標をいいます。なので、ペットボトルの形状は原則的に商標登録の対象にはなりません。

 もっとも、このような商標に該当するものであっても、企業努力によってその形状と事業者の結びつきが強固となり、需要者がその形状によって事業者を区別することができるようになった場合は、商標法第3条第2項の規定により商標登録を受けることができます。ただし、この規定の適用はかなりハードルが高いです。たけのこの里やきのこの山の認知度でさえ結構苦戦しているようでした。

 シャネルNo5の件については、そのボトルデザインの識別力がないと判断されてしまったということですね。ただし、識別力がないと判断されてしまっても、これからシャネル側が識別力の証明をすれば、商標登録が認められる可能性はあります。たけのこの里やきのこの山の立体商標にかかる出願についても、特許庁の審査で識別力がないことの拒絶理由が通知され、その後識別力の証明をした上で商標登録となっています。

 私や私の家族はシャネルの香水のユーザーなので、ボトル形状によってシャネルの香水化どうかはわかるのですが、シャネルNo5のボトルデザインは、香水のボトルとして特段いびつな形をしているわけではないので、シャネルの香水を購入したことがない方からすれば、香水のボトルとしては一般的にみえるような気がしなくもありません(笑)