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メルカリ等における転売は商標権侵害になるのか?

 商標権侵害は具体的にどのような行為によって成立するのかご存じですか?実は、他人の商標を使っても商標権侵害にならないケースは結構存在します。例えば、中古ショップは、様々な商品を買い取り、別の消費者に転売するビジネスモデルですが、中古ショップによる転売行為は商標権侵害にあたらないのでしょうか?今回は商標権侵害の原則に触れつつ、転売の正当性についてみていきましょう。

 商標法第25条には「商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。」と規定されています。つまり、登録商標を指定商品又は指定役務について使用した時に商標権侵害が成立します。指定商品又は指定役務は、出願人が願書に記載した商標の用途です。そのため、登録商標を使用したとしても、指定商品又は指定役務に対しての使用でなければ、商標権の効力は及ばないということです。

 なので、飲食業についてAという商標が登録されている場合、飲食業に対してAをいう商標を用いることは商標権侵害になる一方、飲食業以外の商品又はサービスにAという商標を用いることは商標権侵害になりません。このあたり結構勘違いされている方が多いのですが、商標登録すれば、その商標の如何なる使用態様も防げるわけではありません。

 転売について

 カメラについてBという商標が登録されているとします。当然、カメラに対してBという商標を用いることは商標権侵害となる一方、カメラ以外の商品又はサービスにBという商標を用いることは商標権侵害になりません。
 では、商標Bが付されたカメラを購入し、そのカメラを転売する行為はどうでしょうか。先ほどの話しから考えると、カメラに対してBという商標を用いていることになりますよね。ですが、この行為は原則的に商標権侵害にはなりません。もし商標権侵害になればリサイクルショップは営業できませんよね。

 商標権の機能

 リサイクルショップが商標権侵害にならないのは商標権の機能が関係しています。
 商標は、商品又はサービスを識別する標識として使用されることで、以下の3つの機能を発揮します。

①出所表示機能
 出所表示機能は、同一商標を付した商品又は役務は一定の生産者、販売者等から提供されたものであることを示す機能です。簡単にいうと、どこから販売されている商品又は提供されているサービスであるのかを示す機能です。商標は、商品又はサービスを識別する標識として機能を有するがゆえに、その商品又は役務の出所を表示する機能を発揮します。例えば、商標「きのこの山」が使用された商品は、株式会社明治から販売されたものであることを示します。

②品質保証機能
 品質保証機能は、同一商標を付した商品又は役務は常に一定の品質又は質を備えていることを保証する機能です。事業者は一定の品質又は質を維持した商品の販売又はサービスの提供を続けることで、需要者はその商標が付された商品又はサービスは一定の品質又は質を備えているだろうという信頼が生まれます。事業者がこの信頼の維持に努める結果、その商標には品質保証機能が生じます。

③広告機能
 商標を使用することにより、その事業者の商品又はサービスであることを需要者に伝え、商品又は役務の購買・利用を喚起させる機能です。広告等に商標を用いることで、需要者に対して印象付け、当該商標が付された商品又はサービスの選択を促す機能です。

 転売行為があった場合、商標がもつこれら機能は発揮されるのでしょうか。
 Nintendoのコントローラを例に考えてみましょう。まず、転売ということなので、NintendoのコントローラにはNintendoの商標が残っています。これをみた需要者は、Nintendoの商標が付されていることで、任天堂株式会社から提供された商品であることが認識できます。そのため、Nintendoのコントローラが転売されたとしても出所表示機能が害されることにはなりません。
 次に、Nintendoのコントローラは任天堂株式会社から提供された商品ですので、任天堂株式会社の品質を備えたものであり、転売行為があったとしても品質保証機能が害されることにはなりません。宣伝広告機能は今回関係ないので説明は割愛します。
 したがって、転売行為はこれら商標がもつ機能を害することにならず、商標権を侵害することにならないのです。中古ショップでNintendoのコントローラが販売されたところで、誰も中古ショップが製造したコントローラとは思わないですよね。仮に転売に対して商標権侵害と認めてしまうと、商標の保護が過度に厚くなってしまうのと、需要者の利益を保護するという商標法の目的にそぐわない結果となってしまいます。

 そのため、転売行為は、条文上の形式だけでみると商標権侵害にあたりますが、商標の市場におけるこれらの機能を害するものでないときは実質的な違法性がないものとして商標権侵害は成立しません(商標機能論といいます。)。

 では、Nintendoのコントローラを改造して転売した場合どうなるでしょうか?

 Nintendoのコントローラを改造した事件として東京地判平成4年5月27日判決(Nintendo事件)があります。この事件は、任天堂が販売するゲーム機本体及びコントローラの各内部構造に54%もの改造を加え、さらに、任天堂の登録商標をそのまま使用した上で新たな商標を付して販売したものです。改造の内容は、高速連射機能、スローモーション機能等を追加するというものです。被告は、原告製品と被告製品は同一性があるものとし、被告製品の購入者は原告製品を改造しただけのものであることを認識しているから、出所の混同を生じないと主張しました。
 これに対し、東京地裁の判断では、以下のように示されています。

 「被告は、右のとおり、原告商品の内部構造に改造を加えた上で被告商品を販売しているのであるから、改造後の原告商品である被告商品に本件登録商標が付されていると、改造後の商品が原告により販売されたとの誤認を生ずるおそれがあり、これによって、原告の本件登録商標の持つ出所表示機能が害されるおそれがあると認められる。さらに、改造後の商品については、原告がその品質につき責任を負うことができないところ、それにもかかわらずこれに原告の本件登録商標が付されていると、当該商標の持つ品質表示機能が害されるおそれがあるとも認められる。したがって、被告が、原告商品を改造した後も本件登録商標を付したままにして被告商品を販売する行為は、原告の本件商標権を侵害するものというべきである。」

 被告は、「HACER JUNIOR」という商標を商品に付していましたが、Nintendoの商標も残ってしまっていました。そのため、被告商標「HACER JUNIOR」が商品に付されていたとしても、需要者が出所を誤認すると考えられ、出所表示機能を害すると判断されました。また、被告は、任天堂のゲーム機本体及びコントローラの各内部機構の50%以上を改造しており、改造後の商品は任天堂の品質を維持できるものではありません。そのため、品質表示機能も害されると判断されました。

 本記事のおさらいを簡単に説明すると、指定商品又は指定役務に対して登録商標を使用すると原則的に商標権侵害になります。ただし、転売に関しては商標の機能を害するものではないので、形式的には商標権侵害にあたるものの、実質的には商標権侵害にあたりません。もっとも、転売であったとしても、その商品に改造があった場合等、商標の機能を害する行為であれば商標権侵害になります。