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商標登録出願の審査にはどれくらいかかる?審査を早く終わらせる方法もあります。

 商標登録を受けるためには、特許庁に対して商標登録出願を行います。特許庁は、商標登録出願がされると、その商標登録出願の出願書類に基づいて審査を行い、審査結果を出願人に対して通知します。審査は商標法に則って行われるものであり、出願された商標が一般的登録要件(商標法3条)及び具体的登録要件(商標法4条)を充たすものであるかを判断します。
 一般的登録要件は、商標が自他商品・役務識別力を具備しているかどうかを判断するものであって、出願商標が商品又は役務に使用された場合にその商品又は役務の出所を識別できることを要求しています。
 具体的登録要件は、自他商品・役務識別力を具備する商標が、商標法4条に規定する不登録事由に該当しないことを要求しています。

 特許庁の審査官は各商標登録出願について審査するわけですが、出願人のもとに審査結果が送られてくるまでは商標登録出願を行った日から約11か月かかります(2022年7月13日現在)。

 ですが、商標登録出願にかかる審査結果を待っている間事業は待ってくれません。事業は日々進んでいきます。なので、審査結果待ちの間に、その商標を使った広告や商品の販売、サービスの提供等を行うことが通常かと思います。では、約11か月待って審査結果が不合格だった場合どうでしょうか。それまで行ってきた事業活動が無駄になる可能性があります。弁理士に頼んでいれば、商標登録出願を行う前に事前調査が行われるため、ほぼほぼ商標の登録可能性というのはわかります。登録可能性が高いとわかっている場合は、安心して審査結果を待つ間も事業を進めることができます。しかし、しっかりと調査した場合であっても登録できるかどうか微妙なものも存在しますので、そういった場合は出願してみて審査結果を待つことになります。この間、事業を進めないわけにもいかないですよね。なので、商標登録出願後、審査結果がくるまでの約11か月よりも早く審査結果が欲しいところです。
 また、審査結果を急ぐ場合は他にもあります。既に自社商標と同じような商標を使用している事業者がいる場合であって、まだ商標権の取得をしていない場合は、商標権を取得してからその事業者に警告することになります。この場合も、急いで商標登録を受けたいと思います。

 このような場合に、審査結果を早くもらうことができる制度として、「ファストトラック審査」と、「早期審査制度」があります。ファストトラック審査は、商標登録出願の出願日から、約6か月で審査結果が来るのに対し、早期審査制度は、商標登録出願の出願日から約2か月で審査結果が来ます。

 ファストトラック審査は、①出願時に、「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」に掲載の商品・役務のみをしている商標登録出願であること、②審査着手時までに指定商品・指定役務の補正を行っていない商標登録出願であることの2つが条件となっています。この2つの条件を満たせば、商標登録出願以外の別の手続を必要とせずに、ファストトラック審査の対象になります。もっとも、ファストトラック審査は、2つの条件を満たせば審査結果がくるまでの時間を約6か月に短縮することができるというメリットがあるものの、①のとおり、「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」に掲載の商品・役務しか指定することができません。なので、既存の商品又は役務ではない新規な商品又は役務の場合はファストトラック審査の適用を受けることが難しく、また、既存の商品又は役務であっても、限定的に解釈されるおそれのある商品又は役務の記載になる場合もあります。これらを意識した上でファストトラック審査の適用を考える必要があります。

 早期審査制度は、適用を受ける対象が3つあります。
 対象1は、①一部の指定商品・指定役務について、出願商標を既に使用していること、②権利化についての緊急性があることが条件となっています。緊急性を要するとは、(a)第三者が出願商標を無断で使用(使用準備)していること、(b)出願商標の使用(使用準備)について第三者から警告を受けていること、(c)出願商標について第三者から使用許諾を求められていること(d)出願商標について日本以外にも出願中であること(e)早期審査の申し出に係る出願をマドプロ出願の基礎出願とする予定があること、をいいます。①では「一部の」指定商品・指定役務について出願商標を使用していることを要求しており、「全て」の指定商品・指定役務について出願商標を使用していることまでは要求されていないです。

 対象2は、全ての指定商品・指定役務について出願商標を既に使用していることが条件となっています。対象1とは異なり、対象2は「全ての」というところがポイントですね。対象2は「全て」の指定商品・指定役務について出願商標を既に使用しているという、対象1よりも強い条件を課しているため、対象1のように緊急性の条件はありません。

 対象3は、①一部の指定商品・指定役務について、出願商標を既に使用していること、②「類似商品・役務審査基準」等に掲載の商品・役務のみを指定していることを条件としています。①については対象1と同じ条件ですね。②については、「商標法施行規則 別表尾(第6条関係)」、「類似商品・役務審査基準」、「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」に掲載された商品・役務のみを指定するということで、予め決められた指定商品・指定役務の書き方に則って商品・役務を指定しましょうということですね。

 対象1~3について出願商標を使用していることが要件となっていますが、「使用」には実際の使用の他に「使用の準備を相当程度進めている」場合も含まれます。「出願商標を既に使用している」とは、(a)商品そのものや、商品パッケージに出願商標をつけている、(b)サービスの提供する店舗の看板に出願商標をつけている、(c)商品・サービスのカタログ等に出願商標をつけて配布している、(d)商品・サービスを紹介するウェブサイトや、オンラインショップのページに出願商標を表示している等が含まれます。「出願商標の使用の準備を相当程度進めている」とは、対外的に出願商標の使用に向けて動き始めていて後戻りする可能性が低く、使用することが確実視される場合等、「使用」とほぼ同等と認められる場合を指します。例えば、(a)出願商標を使った商品・サービスのカタログ等の印刷を既に発注した、(b)出願商標を商品・サービスに使用する予定であることが報道された等が含まれ、商品パッケージのデザイン案やHPでの使用イメージ案を作成したのみでは「使用」とほぼ同等と認められません。

 また、早期審査制度を利用するためには「早期審査に関する事情説明書」を提出する必要があります。対象1~3のいずれに該当するかを認識し、対象に合致した説明書を作成する必要があります。例えば、対象1の場合は、①出願人等の使用状況の説明、②緊急性を要する状況の説明を「早期審査に関する事情説明書」に記載する必要があります。