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音楽教室は著作権料が必要? 学校での演奏との関係はどうなる?

 先日、JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)vs音楽教室の著作権侵害にかかる裁判の最高裁判決がでましたね(2022年10月24日)。音楽教室で生徒や先生が演奏する行為がJASRACにより管理されている著作権に抵触するのかが問題となりました。

 著作権は支分権の束と呼ばれており、複数の権利に細分化されています。
 今回の音楽教室の事件において関連する支分権は著作権法第22条です。著作権法第22条には、「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する」と規定されています。
 今回の争点は、音楽教室における生徒や先生による楽曲の演奏が著作権法第22条に規定されている演奏権の侵害にあたるかどうかです。

 著作権法第22条について

 演奏権は「公に」行う演奏に対して効力が及びます。ここで、「公に」とは、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的としているものとされています。「公衆」とは、特定かつ多数の者を含むと規定されています(著作権法第2条第5項)。したがって、演奏権は、人の面前で行う演奏に限らず、通信手段を用いて演奏する行為にも及び、また、著作権法第22条には「目的として」と規定されていることから、実際に見たり聞いたりした人がいなかったとしても効力が及びます。
 そのため、音楽教室で生徒や先生が楽曲の演奏をする行為が、特定かつ多数の者に対して見せ又は聞かせることを目的としているかどうかが問題となります。

 裁判では、音楽教室での演奏を生徒の演奏と先生の演奏とにわけて考察されました。判決文はまだ公開されていないため断片的な情報ではあるものの、先生の演奏は音楽教室のレッスンは受講契約を結べば誰でも受講でき、生徒は公衆にあたると判断された結果、演奏権の侵害にあたると判断されました。一方、生徒の演奏は、「技術を向上させることが目的、課題曲の演奏はそのための手段にすぎず、教師の指示や指導も目的を達成できるように助けているだけ」と指摘され、演奏権の侵害にあたらないと判断されました。

 そのため、先生による演奏については楽曲使用料の支払い義務が発生する一方、生徒による演奏については楽曲使用料の支払い義務はないこととなりました。本件の落としどころとしては安牌な結論ではないかなと思います。もっとも、音楽産業や文化の発展という観点と音楽教室で楽曲を用いられることによる著作権者の実害とを天秤にかけたときに、著作権者の実害はさほど大きくないのではないかとも 個人的には 思ったりします。

 ここで勘違いされやすいのが、学校での演奏は演奏権侵害にあたり、楽曲使用料を学校側が支払わなければならないのかという点です。
 当該最高裁判決を学校教育における楽曲の演奏当てはめるのであれば、先生の演奏は楽曲使用料の支払い義務が発生する一方、生徒の演奏は楽曲使用料の支払い義務が発生しないことになります。

 しかし、著作権法には、文化的所産の公正な利用という観点の下、著作権者への影響が少なく、著作物の円滑な利用を図ることが公益上妥当であるという理由から、著作権を制限することに関する規定が設けられています。
 したがって、音楽教室における先生の演奏は著作権者の演奏権を侵害し、楽曲使用料の支払い義務が発生する一方、学校等の教育機関における先生の演奏は著作権者の演奏権を侵害することにならず、楽曲使用料の支払い義務が発生しません。