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不正競争防止法で保護される営業秘密って何? かっぱ寿司社長が逮捕された事件から

 先日、かっぱ寿司社長が不正競争防止法違反の疑いで逮捕されたとのニュースをみました。みなさん、不正競争防止法という法律を知っていますでしょうか。不正競争防止法はその名のとおり、「不正競争」を防止する法律です。  どのような行為が不正競争防止法でいうところの「不正競争」にあたるのか、かっぱ寿司社長の逮捕事件に触れつつみていきましょう。

 まず、不正競争防止法の1条には、「この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と規定されています。ちょっとなに言ってるのかわかんないですよね。簡単にいうと、事業者間の公正な取引を確保して社会経済を守ろうということです。また、不正競争防止法は、商標法等の知的財産法を補完する役割も担っています。商標法違反と同時に不正競争防止法違反を理由に訴訟を提起されることがありますよね。商標法違反にもあたり、かつ不正競争防止法違反にもあたる場合があるということです。また、商標法違反にはあたらないものの、不正競争防止法違反にはあたるというケースもあります。この場合、商標法によらず、商標を守れるということになります(法律の適用要件は厳格ですが)。それだけ商標法と不正競争防止法は近い関係にあるということですね。

 不正競争防止法2条には、「不正競争」にあたる行為が列挙されています。その中でも不正競争防止法2条1項1号及び2号はニュースでも度々目にしますね。以下に不正競争行為にかかる一部の規定をご紹介します。

 不正競争防止法2条1項1号及び2号は商品等表示に関する不正競争行為を規定しています。不正競争防止法2条1項1号は「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」と規定しています。需要者の間に広く知られている他人の商品等表示と同じか若しくは似ている商品等表示を使用した結果、需要者の誤認混同を招く行為を規制しています。

 不正競争防止法2条1項2号は「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為」と規定しています。他人の著名な商品等表示と同じか若しくは似ている商品等表示を使用した商品の販売等を規制するものです。不正競争防止法2条1項1号との違いは、商品等表示の周知性が著名なレベルで要求されていること(不正競争防止法2条1項1号は需要者の間に広く知られている)及び需要者の誤認混同を要件としていない点です。著名とは全国的な周知性を要求されているので、不正競争防止法2条1項2号の適用は非常に困難だといえます。
 なお、商品等表示には商標も含まれますので、商標法で保護できなかった商標は不正競争防止法2条1項1号又は2号で保護できる場合があります。

 不正競争防止法2条1項3号は他人の商品の形の模倣に関する不正競争行為を規定しています。不正競争防止法2条1項3号の条文には「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」と規定されています。商品の形態を保護するという点で意匠法を補完する条文です。

 不正競争防止法2条1項4号~10号は営業秘密に関する不正競争行為を規定しています。今回のかっぱ寿司の件については営業秘密に関する不正競争行為にあたります。営業秘密の詳細については後述します。

 不正競争防止法2条1項11号~16号は限定提供データに関する不正競争行為を規定しています。
 その他の不正競争行為は2条1項17号~22号まで規定されています。

 前述したように、かっぱ寿司の件については営業秘密に関する不正競争行為を理由として逮捕されています。
 ここで、「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいいます(不正競争防止法第2条第6項)。
 この規定から、営業秘密として保護されるためには3つの要件を充たす必要があります。
 ① 秘密管理性
 秘密管理性が認められるためには、営業秘密保有企業の秘密管理意思が、秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要があります(経済産業省ウェブページから引用)。客観的に秘密情報として管理していることがわかる態様で情報が保護されている必要があります。そのため、単に会社内のサーバに格納されているだけでは秘密管理性の要件を充たすことはできず、フォルダにパスワードをかけた上でその情報にアクセスできる人間を制限する等の措置が必要です。なお、「大阪地判平成20年6月12日 平成18年(ワ)5172号」では秘密管理性を否定する例として、情報の入ったパソコンのIDとパスワードを複数の従業員で共有し、かつ、IDとパスワードが付箋に書いてある場合や、退職者がでてもパスワードが変更されなかった場合等が挙げられています。

 ② 有用性
 有用性が認められるためには、当該情報自体が客観的に事業活動に利用されていたり、利用されることによって、経費の節約、経営効率の改善等に役立つものであることが必要です(経済産業省ウェブページから引用)。「事業上」役に立つ情報である必要があります。したがって、事業上役に立つことのない情報(公序良俗に反する内容の情報等)については営業秘密として保護されることはありません。

 ③ 非公知性
 非公知性が認められるためには保有者の管理下以外では一般に入手できないことが必要です(経済産業省ウェブページから引用)。不正競争防止法2条6項の「公然と知られていない」とは、当該営業秘密が一般的に知られた状態になっていない状態、又は容易に知ることができない状態であることが必要です。

 ①秘密管理性、②有用性、及び、③非公知性を充たす情報は営業秘密として不正競争防止法により保護されます。したがって、特許出願に適さないような情報はあえて特許出願をせずに秘匿化するという方法もあります。侵害の発見が困難な発明の場合等は秘匿化が有効な場合もあります。

 かっぱ寿司の社長が持ち出したデータは、はま寿司の仕入れに関するデータをコピーしたものであるため①~③を充たし、営業秘密にあたるものと考えられます。

 営業秘密にかかる不正競争行為は従業員の転職に伴って起こるケースが多いため、従業員の転職時には特に注意を払う必要があります。営業秘密の漏洩を未然に防ぐためには、従業員に対して不正競争行為にかかる研修を行うことや企業と従業員との間の秘密保持契約を締結することが挙げられます。