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デザインの著作権は必ず譲渡契約を結びましょう

 みなさんは「著作権」をご存じでしょうか。著作権はみなさんの身近に存在している一方で、曖昧な権利であるがゆえに気づかない間に侵害しちゃっているなんてことも結構あります。
 Youtubeをよくご覧になられる方は、YoutuberがバックのBGMを気にしているシーンを見たことがあると思います。あれは、音楽が動画内の音声に入り込んでしまうことを気にしています。音楽は著作権法の保護対象となっており、その音楽が入った動画をアップロードしてしまうと著作権侵害になってしまうからです。著作権侵害に当たるか否かの判断は、その対象物が著作物にあたるか否か及びその著作物にかかる著作権を侵害する態様で利用されているか否かがポイントになります。

 では、デザイナーさんが制作した商用のデザインはどうでしょうか?

 デザイナーさんは依頼者から対価を頂き、その依頼者の要望に基づいて様々なもののデザインをしますよね。この時、著作権は誰に発生しているのでしょうか?お金を支払った依頼者に発生するのでしょうか?そもそも、そのデザインは著作物であり、著作権が発生しているのでしょうか?

 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定されています(著作権法第2条第1項第1号)。この規定により、著作権法は人の創作的な表現を保護する法律であるということが理解できます。したがって、デザインは概ね著作物にあたると理解できます。

 著作物に該当するデザインを創作したデザイナーさんには、著作者の人格的利益を保護する著作者人格権と著作者の財産的利益を保護する(狭義の)著作権が発生します。著作権及び著作者人格権は、創作した時点で自動的に発生し、特許、商標、意匠のように特許庁に対する出願手続等を必要としません。文化庁には、著作物の登録制度があるものの、文化庁に登録することで著作権が発生するというものではなく、権利関係の明確化等のために利用されています。また、文化庁による登録は著作物として認められることを保証していないので、文化庁に登録されているものが必ずしも著作物であるとは限りません。

 著作者人格権の種類としては、①公表権、②氏名表示権、③同一性保持権があります。簡単に説明すると、公表権はその著作物を公表するか否かやいつ公表するか、氏名表示権はその著作物に自身の名前を出すか否か等、同一性保持権は著作者の意に反した改変がなされないようにするための権利です。

 一方で、著作権は支分権の束と呼ばれており、複数の権利に細分化されています。以下、著作権法上の条文と共に確認しましょう。

 a 著作権法第21条には「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。」と規定されており、著作者は複製権を有します。

 b 著作権法第22条には「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)」上演し、又は演奏する権利を専有する。」と規定されており、著作者は上演権及び演奏権を有します。

 c 著作権法第22条の2には「著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有する。」と規定されており、著作者は上映権を有します。

 d 著作権法第23条第1項には「著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。」と規定され、著作権法第23条第2項には「著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。」と規定されており、著作者は公衆送信権等を有します。

 e 著作権法第24条には「著作者は、その言語の著作物を公に口述する権利を専有する。」と規定されており、著作者は口述権を有します。

 f 著作権法第25条には、「著作者は、その美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物をこれらの原作品により公に展示する権利を専有する。」と規定されており、著作者は展示権を有します。

 g 著作権法第26条第1項には「著作者は、その映画の著作物をその複製物により頒布する権利を専有する。」と規定され、著作権法第26条第2項には「著作者は、映画の著作物において複製されているその著作物を当該映画の著作物の副生物により頒布する権利を専有する。」と規定されており、著作者は頒布権を有します。

 h 著作権法第26条の2第1項には「著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。以下個の条において同じ。)をその原作品又は複製物(映画の著作物において複製される著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。以下個の条において同じ。)の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。」と規定されており、著作者は譲渡権を有します。著作権法第26条の2第2項には譲渡権が制限される場合が規定されています。

 i 著作権法第26条の3には「著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。」と規定されており、著作者は貸与権を有します。

 j 著作権法第27条には「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」と規定されており、著作者は翻訳権、翻案権等を有します。

 k 著作権法28条には「二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。」と規定されており、著作者は二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を有します。

 各権利はそれぞれが譲渡可能であるので、例えば、複製権のみを譲渡することも可能です。

 ここで、デザイナーさんには3つの著作者人格権及びa~kの支分権が発生することがわかりました。そのため、デザイナーさんにお金を支払った依頼者は著作者に当たらないということです。
 依頼者は、デザイナーさんに何かしらのデザインを依頼してお金を支払ったものの、著作権はデザイナーさんにあるため、そのデザインを何かに使用した場合、デザイナーさんの著作権を侵害してしまいます。例えば、そのデザインを商品に付して販売する場合は、複製権の侵害になりますし、そのデザインを商品の形に合わせて変更を加えることは翻案権の侵害になります。そのデザインを商標として利用する場合も同じように、著作権を侵害することになります。
 もっとも、依頼者がそのデザインに対して商標登録出願を行った場合、商標登録を受けることはできます。商標登録は早い者勝ちなので、先に登録されている商標と被らなければ登録できるからです。しかし、商標登録はできるものの、その登録商標を使用することは商標法29条により制限されています。商標法29条は、登録された商標が、登録商標にかかる商標登録出願の出願日よりも前に発生した著作権と抵触する場合は、登録商標の使用をすることができないとするものです。

 以上から、デザイナーさんと依頼者との間では、支分権のうちどの権利を譲渡して、その権利の中のどのような利用に対して許諾するといった譲渡契約を書面で結ぶ必要があります。でないと、依頼者はデザイナーさんの著作権を侵害していることになりますし、後々トラブルになるケースが多いです。SNSでも絵師さんがアイコン画像を制作する場合がありますが、このような場合であっても、著作権にかかる処理はしておいた方が安全といえます。